小刻みに震える片目から涙が零れ落ちてエメラの頬を伝う。
魔獣界を治める者として強く生きてきたエメラが泣き顔なんて、誰にも見せた事はない。
今や執愛と狂愛を併せ持つクルスは、そんなエメラの涙さえも快楽のエッセンスでしかない。
「へぇ、そんな弱々しい表情もするんですね。可愛いなぁ、ますます好きになりました」
薄笑いで近付くクルスの瞳は、アディと同じ金色。でもアディの愛とは違う。
今ではもう、エメラの心と身体はアディの愛しか受け入れられない。アディ以外の愛なんていらない、受け入れたくないと強く思う。
魅了の魔法を使わなくたって、自分はこんなにもアディを求めているのだと、今になって自覚する。
「アディ様……」
最後の最後までの抵抗と愛の証として、エメラはアディの名を呼んだ。決して失いたくない、愛する人の名を。
口付けの直前でアディの名を呼ばれたクルスは当然、いい気はしない。
「すぐにその名も忘れますよ。ディア様みたいにね」
「……え?」
それは、どういう意味なのか。
『記憶』と『ディア』というワードを繋ぎ合わせた時に、1つの答えが思い浮かんだ。信じ難いが、それが真実なら全てが繋がる。
「まさか、あなたがディア様の記憶を……?」
「はい。僕がディア様の記憶を封印しました」
「なんという事を……!!」
「何度も言ってるでしょう。僕は何百年も前からあなたを追い続けているのです」
確かに、ディアが記憶喪失になったのは何百年も前の事だ。クルスはその頃からエメラを追いかけていた。執念と執着、まさに執愛である。
クルスは、エメラが愛したディアの記憶を全て封印する事で邪魔者を消した。
だが、まさか今度は息子のアディを愛するとは想定外であった。
「今度はあなたの記憶を封印します。そして今度こそ僕と結ばれるのです」
(いや……! アディ様……!!)
エメラが心の中でアディの名を強く叫んだ、その瞬間。
ドォン!!
激しい衝突音と同時に、クルスとエメラの立つ森の地面も振動で揺れ動いた。
その衝撃に驚いたクルスが何かの気配に気付き、後方の上空を見上げる。
「くっ……まさか、そんな……」
クルスの意識が逸れた事で魔法が解け、エメラは体が動くようになった。咄嗟にクルスから離れて距離を取る。
衝撃は上空から伝わってきたように感じる。
エメラが上空を見上げると、魔獣界を覆う結界の向こう側に巨大な黒い魔獣が浮かんでいる。その背には誰かを乗せているようだ。
「あれは……ディア様!? それに……」
コウモリの羽根で空に浮かぶ黒い魔犬は、魔獣王ディアだ。そして、その背に乗っている人物は……
「ヒャハハハ!! 来てやったぜ、オラオラ討ち入りだぁぁー!!」
空気も読まずに場違いのテンションで叫び声を上げている男こそ、魔王オランだ。
「……あのおバカ悪魔男! アディ様が人質ですのに……」
自由で無鉄砲すぎる魔王に呆れたエメラは遠い目をしながら呟いた。
そしてクルスも、アディが人質なら魔界は攻めて来ないだろうと甘く見ていた。
魔獣界を治める者として強く生きてきたエメラが泣き顔なんて、誰にも見せた事はない。
今や執愛と狂愛を併せ持つクルスは、そんなエメラの涙さえも快楽のエッセンスでしかない。
「へぇ、そんな弱々しい表情もするんですね。可愛いなぁ、ますます好きになりました」
薄笑いで近付くクルスの瞳は、アディと同じ金色。でもアディの愛とは違う。
今ではもう、エメラの心と身体はアディの愛しか受け入れられない。アディ以外の愛なんていらない、受け入れたくないと強く思う。
魅了の魔法を使わなくたって、自分はこんなにもアディを求めているのだと、今になって自覚する。
「アディ様……」
最後の最後までの抵抗と愛の証として、エメラはアディの名を呼んだ。決して失いたくない、愛する人の名を。
口付けの直前でアディの名を呼ばれたクルスは当然、いい気はしない。
「すぐにその名も忘れますよ。ディア様みたいにね」
「……え?」
それは、どういう意味なのか。
『記憶』と『ディア』というワードを繋ぎ合わせた時に、1つの答えが思い浮かんだ。信じ難いが、それが真実なら全てが繋がる。
「まさか、あなたがディア様の記憶を……?」
「はい。僕がディア様の記憶を封印しました」
「なんという事を……!!」
「何度も言ってるでしょう。僕は何百年も前からあなたを追い続けているのです」
確かに、ディアが記憶喪失になったのは何百年も前の事だ。クルスはその頃からエメラを追いかけていた。執念と執着、まさに執愛である。
クルスは、エメラが愛したディアの記憶を全て封印する事で邪魔者を消した。
だが、まさか今度は息子のアディを愛するとは想定外であった。
「今度はあなたの記憶を封印します。そして今度こそ僕と結ばれるのです」
(いや……! アディ様……!!)
エメラが心の中でアディの名を強く叫んだ、その瞬間。
ドォン!!
激しい衝突音と同時に、クルスとエメラの立つ森の地面も振動で揺れ動いた。
その衝撃に驚いたクルスが何かの気配に気付き、後方の上空を見上げる。
「くっ……まさか、そんな……」
クルスの意識が逸れた事で魔法が解け、エメラは体が動くようになった。咄嗟にクルスから離れて距離を取る。
衝撃は上空から伝わってきたように感じる。
エメラが上空を見上げると、魔獣界を覆う結界の向こう側に巨大な黒い魔獣が浮かんでいる。その背には誰かを乗せているようだ。
「あれは……ディア様!? それに……」
コウモリの羽根で空に浮かぶ黒い魔犬は、魔獣王ディアだ。そして、その背に乗っている人物は……
「ヒャハハハ!! 来てやったぜ、オラオラ討ち入りだぁぁー!!」
空気も読まずに場違いのテンションで叫び声を上げている男こそ、魔王オランだ。
「……あのおバカ悪魔男! アディ様が人質ですのに……」
自由で無鉄砲すぎる魔王に呆れたエメラは遠い目をしながら呟いた。
そしてクルスも、アディが人質なら魔界は攻めて来ないだろうと甘く見ていた。



