魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 そんなエメラの心の疑問すらも読んだかのように、クルスは自ら答えを語り続ける。

「簡単にアディ様に死なれても面白くないですしね。しっかりと不倫を見せつけないと。それこそが略奪愛の面白さだと思いませんか」
「……狂ってますわ……!!」
「ふふ、最高の褒め言葉ですね」

 邪魔なはずのアディを生かしておく理由は、エメラとの不倫を見せつけて絶望に落とすためだった。
 皮肉にも、それは過去にアディが語っていた『エメラを奪おうとする者に対する処置』と同じ内容だ。

「僕が狂うのは罪ではありません。狂わせるあなたが罪なんですよ」
「……!!」

 一体、エメラにどれだけの罪を背負って生きろと言うのだろうか。
 ふっと突然クルスから笑顔が消えて、どこか虚空を見つめながら呟く。

「魔獣王ディアに、アディ……親子二代に渡って僕からエメラ様を奪う彼らが憎い。今こそ見返してやりますよ」

 その言葉に対してエメラは違和感を覚える。
 クルスはアディと容姿が似ているから同年代かと思っていたが、違うのかもしれない。もっと昔からディアやエメラの事を見てきたかのような口ぶりだ。

「……わたくしは今後、どうすればよろしいのでしょうか」

 エメラは差し障りのない程度にクルスに従うふりをして、状況を打開するチャンスを狙う事にした。
 いくら容姿が似ていても、アディと同じようにクルスを愛するなんて決して出来ない。

「あぁ、エメラ様は普段通りでいいですよ。自由にして下さい。もちろんアディ様には会えませんが」

 自由に動いていいという、その余裕は何だろうか。緩すぎて逆に警戒してしまう。
 クルスの目的がエメラと結ばれる事であれば、エメラの命が狙われる事は決してない。だがアディが捕らえられている以上、下手に動けない事に変わりはない。

 元々、重役を含めた城の者たちはアディの独裁に不信感を持っていた。だからこそ簡単にクルスの魔法に操作されてしまった。

 この魔獣界の城はクルスに支配されて、エメラとアディの味方は誰もいない。
 偽りの魔獣王となったクルスから魔獣界を取り戻す術は、まだ見付からない。


 だがエメラもアディも、決して一人ではない。
 過去から繋いできた本物の絆、家族……それらが存在する、第2の故郷というべき異世界がある。


 それは『魔界』である。