魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 クルスは体の向きを変えると、背後の椅子に堂々と腰掛ける。それは王のみが座る事を許された玉座だ。

「なんという事を! そこは魔獣王のみが座るお席ですのよ!」

 エメラが王と認めるのは、現在の魔獣王・ディアと、仮の魔獣王・アディだけである。
 だがクルスは足を組んで身を乗り出してエメラの反応を楽しんでいる。

「これからは愚かな王子に代わって僕が魔獣王になりますよ」
「……あなたは魔獣界を乗っ取る気ですか!? そんなの無茶ですわ!」

 単なる魔獣のクルスに、王族のアディを超える能力があるとは思えない。
 だが実際、こうしてクルスはアディを欺いて王位を奪っている。一体、どんな力があるというのだろうか。
 そんなエメラの疑問でさえ、クルスには全て見抜かれている。

「別に不思議ではないですよ。魔力不足のくせに短期間で魔法を習得したアディ様と比べられては困ります。言ったでしょう、僕は何百年も積み重ねてきたのです。禁断の魔法だって同時に使えるほどにね」

 その言葉から、クルスはアディを超える魔力を持つ事が分かる。確実にアディに勝てる魔力を身に付けた上で計画を実行したのだと。

「教えてあげましょうか。僕が得た4つ目の禁断の魔法を」

 クルスは立ち上がると、再びエメラの正面に立つ。
 クルスの思惑に含まれた異常な闇が明かされるたびに、それは恐怖となってエメラを追い詰めていく。

「それは記憶の操作です」

 それで全てが理解できた。信じられない話ではあるが、城の者たちは全て記憶を操作されている。ディアでもなく、アディでもなく、クルスが魔獣王なのだと。
 そうなると、次のクルスの目的は見えてくる。それを口にするのも恐ろしいが、エメラは震える唇で真意を確かめる。

「わたくしの記憶も……操作なさるおつもりですか?」

 それが可能なら、エメラはクルスを愛するように操作されてしまうはずだ。
 しかしクルスは明るく笑って返した。

「あはは、しませんよ。そんな反則は面白くない」

 どの口が言っているのだろうか。本来ならば、エメラはとっくにクルスに平手打ちをお見舞いしている。
 それならば、クルスにとっての『面白い』とは一体何なのか。