魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 ベッドから下りたエメラは、まず急いで黒のドレスを着る。
 それから医師の手配をしに行こうと、ドアの前に近付いた瞬間。

 バン!!

 エメラがドアを開けるよりも先に、外側から乱暴に寝室のドアが開いた。
 仮にもここは魔獣王であるアディとエメラの寝室。勝手に入って来る者などいないはずなのに。

「……クルスさん!?」

 開いたドアの先に堂々と立っていたのはクルスだ。
 相変わらずの笑顔に異様さを感じたエメラは瞬時に身構える。

「お迎えに上がりました、エメラ様」
「……どういう事ですの?」

 クルスはエメラの横を通り過ぎて、アディの寝ているベッドの前に立つ。
 すると開いたドアの先から武装した兵が次々と部屋の中に流れ込んできた。そしてアディのベッドを包囲する。
 クルスは冷ややかな瞳でベッドに横たわるアディを見下す。そこに感情は一切ない。

「所詮は王の成り損ないですね。愚かな王子には退場して頂きます」

 起き上がる事すらできないアディは、弱々しくも金の瞳で睨みつける事しかできない。

「クルス、どういうつもりだよ……」
「あぁ、その前に服は着て下さいね。汚らわしくて見ていられない」

 クルスはわざとらしく不快そうな顔をして背を向けると、ドアの前に立つエメラと再び向かい合う。
 だがエメラもクルスを睨み返す。

「クルスさん、これは一体どういう事なのです。謀反ですか」
「嫌だなぁ、僕はエメラ様をお救いしたのですよ。あの愚かな王子からね」

 クルスが何を企んでいるのか、どうして兵がクルスに従うのか、状況は全く把握できない。だが兵に囲まれた以上、抵抗はできない。

「ご心配いりませんよ、エメラ様。アディ様の命までは取りませんから」
「……何がしたいのです」

「僕があなたを幸せにします」



 アディはクルスが引き連れた兵によって捕らえられ、どこかに連行された。
 どういう事なのか、城の者たちや兵は当然の事のようにクルスに従う様子であった。
 まるで今までずっとクルスが魔獣王であったかのように。

 無抵抗のエメラはクルスによって玉座の間へと連れてこられた。
 ここで話をしようという事らしい。