魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 迷う時間をアディは与えてくれない。

「さぁ、おいで。そして僕を愛して」

 言葉のままに、導かれるままに、アディの狂愛のままに……エメラはアディの口付けを受け入れた。

 唇から流し込まれる愛と魔力が熱い。
 今までにない熱さなのは、『魅了(チャーム)』と共に『封印』の魔力も注がれているせいだ。
 アディは口付けと共に、2つの魔法を同時にエメラにかけようとしている。

 ……わたくしは本当に、これでいいのでしょうか?

 結婚を急ぎ、懐妊を目的として注がれる愛は、本当に愛と呼べるのだろうか。
 最後の迷いが熱によって燃え尽きた瞬間に呼吸が解放された。

 意識が朦朧として身体が熱い。魅了(チャーム)の魔法が、いつもよりも強く身体を反応させている。

「エメ姉……」

 目の前で名前を呼ぶ彼が、ただ愛しい。魅了(チャーム)の効果だとは分かっていても、耐え難い身体の熱がアディを求めてやまない。
 エメラは手を伸ばしてアディの首を両腕で抱いて再び温もりを求める。

「アディ様……」
「ねぇ、エメ姉。ディアって誰だか知ってる?」

 アディは封印の魔法が成功したかを試した。
 エメラは朦朧……いや、恍惚として蕩けそうな金の瞳で物欲しそうにアディを抱きしめる。

「……存じ上げません……」

 エメラの記憶の中には『ディア』という名前の存在すらも消えていた。
 ふっとアディは口の端を上げて笑う。

「それでいい。エメ姉は僕だけを愛せばいいんだ」
「……はい。アディ様、愛しています。もっと、もっと愛して……」

 ディアという未練が消えたエメラには、もう迷いがない。
 ただひたすらにアディの名を呼びながら愛し求める。

 それは、まさに理性を失くした魔獣が本能のままに重なる繁殖行為。


 やがて二人の力が尽き果てると長い夜が終わり、ようやく身を沈めて安らかな眠りにつく。
 幸せな夢は一晩で終わるという現実を、未だ夢の中で寄り添う二人はまだ知らない。