魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 そして夜になれば、エメラは以前にも増してアディからの激しい愛を受ける事になる。
 狂気という名の狂愛は日々エスカレートしていき、とどまる所を知らない。

「ねぇ、エメ姉。禁断の魔法って主に3つあったよね。何だっけ?」

 就寝前のベッドの上でアディは突然、それまでの会話とは何の脈略もない質問をしてきた。

魅了(チャーム)、結界、封印、ですわ」

 その3つは禁断の魔法とは言われているが、魔獣界での使用は合法とされている。

「そっか。残り1つ、エメ姉にかけてみようか」
「え……?」

 アディは魅了(チャーム)と結界の魔法は習得している。
 現に毎晩エメラに魅了(チャーム)を使用しているし、結界魔法で魔獣界を封鎖している。
 しかし、封印魔法をエメラに使うとは、どういう意味なのだろうか。

 アディはエメラの体を優しく押し倒すと上から覆い被さる形で互いの唇の距離を縮める。
 いつものように魅了(チャーム)の魔法をかけられるのだろうと、エメラは瞳を閉じて受け入れようとする。

「ねぇ、エメ姉、知ってる? 封印の魔法のもう1つの使い道」
「……! え……?」

 アディの言葉から、とある可能性に気付いたエメラは目を見開く。
 封印の魔法とは、人や物を物理的に封印するだけではない。

「アディ様、まさか……」
「うん。『記憶』も封印できるんだよね」

 アディが封印したいエメラの記憶。それは1つしか考えられない。
 エメラは迫るアディの肩を両腕で押し返そうとするが、力では勝てない。

「アディ様、それだけは……いけません、おやめ下さい……!!」

 エメラはこの時、初めてアディに抵抗した。
 どんな愛でも受け入れると決めたのに、ただ1つだけエメラが受け入れられない行為。

「父さんの事は忘れなよ」

 それはエメラの中にある、ディアの記憶を封印すること。
 かつて愛した記憶も、今も残る未練も、全て封印してしまえばエメラの心は自由になる。アディをディアと重ねて見る事もなくなる。
 アディにとって、これは罪の行為ではなく善意のつもりなのだ。

「そうすれば、もっと僕を愛せるでしょ?」

 アディの言葉が、心を誘導する呪文のように耳に届く。
 抵抗しても、心のどこかではアディに全てを委ねたいと思ってしまう。
 魔法のせいにして、本当は自由になりたい。過去の未練と罪の意識から逃れたい。
 結局それはアディに罪を被せる事と同じなのに。