魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 その日、魔獣界では緊急の重役会議が開かれた。
 そしてアディは魔獣界を結界で封鎖した事を伝えた。

「そ、そんな……」
「魔獣界は大丈夫なのでしょうか……?」

 重役たちは戸惑いこそするが、誰一人として反論する者はいない。
 アディに逆らえばどうなるか、それは誰もが承知している。しかも封鎖された魔獣界では、アディから逃げも隠れもできない。
 そしてエメラも、アディの席の隣で黙って会議を見守るしかなかった。

(このままでは、いつかアディ様が孤立してしまいますわ……)

 アディの独裁は確実に国民不信・政治不信に繋がる。
 ふと離れた席に座るクルスの姿が目に入ったが、普段通りで澄ました顔をしている。
 エメラの不安をよそに、アディは席を立って堂々と発言する。

「みんな、心配はいらないよ。結界は一時的な処置だ」

 とは言うものの、封鎖の理由も期間も、肝心なところは何も語らない。
 エメラは自身が『懐妊するまで』が期間である事をアディの口から言われないかと冷や汗をかく。
 言われてしまえば、周囲がどんな目でエメラを見るか……考えただけでも居心地が悪い。

 会議が終了すると、アディは足早に会議室を出る。
 会議室に残された重役たちがそれぞれ疑問や不安を口にしている中、エメラはクルスの席に向かった。

「そういう事になりましたわ。クルスさんにもご迷惑おかけして申し訳ありません」

 クルスはテーブルの上の手帳と筆記具を片付けながら、キョトンと金色の瞳を丸くしてエメラを見返した。

「あ、僕は大丈夫ですよ。元々、魔獣界の住民なので問題ないです。まぁ外交の仕事ができなくなるくらいですね」

 淡々と語るクルスの考えは、あまりにもドライすぎる。
 確かに魔獣界を一時的に封鎖したところで、一般市民に大きな問題はないのだろう。
 希少種の魔獣のみが住む魔獣界では、密猟者などを恐れて異世界に行く者は多くないからだ。