魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 思えば、前回の外出でも思い知った事であった。
 エメラがクルスと二人きりで出かける事も、魔界に行けばディアに会える事も。アディにとっては、そのどちらも腹立たしく屈辱的なのだ。
 アディは、クルスにもディアにもエメラを独占されたくない。

 アディは壁から離れて、さらにエメラに接近する。
 何かをされると思ったエメラの体が強張るが、アディは何もせずにエメラの正面に立つだけ。そして顔を伏せているエメラを冷えた瞳で見下す。

「僕から離れないって言ったよね」
「……はい、申し訳ありませんでした……」

 ここまできたら理屈ではない。アディの狂愛に理屈なんて通らない。エメラはただアディに従い、その狂愛を受け入れるしかない。
 ……かと思うと突然アディの表情が一変し、いつもの笑顔で笑いかけてきた。

「エメ姉は今後、外出禁止。魔獣界から出たらダメだよ」
「……そ、そんな……!」
「これは命令だ」

 唖然としたエメラを残してアディは歩き出す。
 城門の外に出て広場の真ん中に立つと、静かにエメラの方を振り返る。

「逃げられないようにしなくちゃね」

 直立するアディの全身からは、目に見えるほどの魔力のオーラが立ち上っている。
 少し離れた距離に立つエメラにも、その強力な魔力がピリピリと肌に伝わってくる。その魔力量から推測すると、使おうとしている魔法の種類は限られてくる。

「アディ様、いけません、それは……!」

 エメラの叫びが届くはずもなく。
 アディの纏った魔力のオーラが体を離れて放出されていく。
 それはアディを中心にドーム状に巨大化して魔獣界そのものを包み込んでいく。

(やはり、これは結界魔法ですわ……!)

 禁断の魔法の1つ『結界』。
 エメラもかつて、魔獣界を密猟者から守るために使用した事があった。
 強大な魔力を要する事から使用できる者は限られる。まさかアディが習得していたとは予想外だった。

 魔獣界は見えない結界の壁に囲まれて完全に封鎖された。

 膨大な魔力を消耗したアディは、フゥッと大きく息を吐いた。エメラは恐怖を忘れて衝動的にアディに駆け寄る。

「アディ様、何という事をなさいますの!?」
「ふふ。これで魔界に行けないよ」

 この状況で笑っていられるアディの心理が、もはやエメラにも理解し難い。