魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 二人は魔獣の姿に変身して飛行し、魔獣界の城へと帰ってきた。

 魔界で魔王に挨拶をしただけなので、外出の時間は1時間程度で済んだ。まだアディは眠っているかもしれない。
 そんな事を考えながら城門を通ろうとすると、門の横の壁に誰かが寄りかかって立っていた。

「アディ様……?」

 アディは壁を背にして腕を組み、口を閉ざしたままエメラを見つめている。……いや、睨みつけているようにも見える。
 その無言と視線に危険を感じたエメラは、まず隣のクルスに声をかける。

「クルスさん、お先にお城の中へ」
「はい」

 緊迫した空気を読んだクルスは、エメラに言われた通りに門を通って城の中へと入って行った。
 アディが全く動く様子がないので、エメラが壁際の前まで歩み寄る。そしてまず、アディの顔色を確かめる。

「アディ様。もうご体調は大丈夫ですの?」

 アディは金色の瞳を細め、鋭利な刃のような視線でエメラを射抜く。

「そんな事はどうでもいいんだよ」

 普段の爽やかで明るいアディからは想像できないような重い声に、エメラは背筋が凍るような恐怖に身を震わせる。
 アディの感情は怒っているのか、妬んでいるのか判断ができない。

「……どこ行ってたの?」
「魔界です。魔王様にクルスさんのご紹介を……」
「僕は許可してないよ」

 エメラはハッとして息を呑んだ。アディが怒る理由は『許可なく外出した』からだと判断したからだ。
 しかしエメラはアディの体調を気遣って外出の許可を申し出なかっただけで、決して他意はない。

「申し訳ありません。アディ様はお休み中でしたので、あえてお伝えしなかったのですわ」
「逆だよ。僕を放って出かけたって事だよね」
「そ、そんなつもりは……!」

 エメラの気遣いはアディにとっては逆効果だった。一度アディの逆鱗に触れてしまえば、どんな言い訳をしても取り返しがつかない。
 そして怒りが引き金となってアディの狂気が目覚めてしまえば、もう誰にも止められない。