魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 ストレートで甘すぎるアディの愛の言葉。心も意識も奪われたエメラは、完全に放心状態に陥っていた。
 アディが玉座の間から立ち去って少しすると、ようやく思考が動きだした。

(ペンダント? 何の事でしょうか)

 今日のエメラは、ペンダントは身に着けていないはず。
 そっと自分の首回りを手で触れて確認してみると、そこには確かに細いチェーンの感触。それを辿って胸元を確認すると、そこには小さな青い宝石が煌めいていた。

(……いつの間に……)

 いつ、アディはエメラの首にペンダントを着けたのだろうか。おそらく先ほど背後から抱きつかれた時だろうと、エメラはようやく気付いた。

 魔界と魔獣界では、求婚の際に指輪やペンダントなどの装飾品に自らの魔力を込めて相手に贈るという風習がある。

 アディを象徴するかのような、爽やかなブルーの宝石。海のごとく深い愛と魔力が込められた、このペンダントはアディからの婚約の証。
 エメラは宝石を両手で包むと目を閉じて、確かなアディの愛を感じ取る。

(アディ様……)

 知らぬ間に受け取ったとはいえ、そのペンダントを身に着けたエメラは求婚を受け入れた事になる。

 今、この瞬間にエメラとアディは婚約したのだ。

 エメラ自身も確かにアディを愛してはいる。だが、アディに愛されれば愛されるほど、幸せよりも罪悪感の胸の痛みを感じてしまう。

 見つめ合った瞬間も、キスの瞬間も、その声すらも。
 アディの姿に、かつて愛した魔獣王ディアのおもかげを重ねてしまう罪悪感を。