魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 アディにとっては、相手が誰なのかは重要ではない。エメラの心と身体を奪った者は、誰であろうと許さないのだから。

「僕への愛を見せつけてやったというのに、誰が!!」

 アディが外出前のエメラに魅了(チャーム)をかけた理由は、単なる娯楽ではない。
 アディを愛し求めるエメラの姿を見せつけ、誰もエメラに手出しは出来ないようにするためだった。
 当然、それを見せつける主な相手はクルスであり、アディの思惑は成功していた。
 アディとクルスは、お互いが気付かないままでマウントバトルをしていた。

「一体誰が、エメ姉を……」

 何かに気付いたアディは急に言葉を止めて黙り、息を整えてからエメラの目の前で囁く。

「父さん、か?」
「…………」

 エメラは答えられない。どちらの答えであってもアディにとって過酷なのは変わらない。
 そしてアディもすでに知っている。エメラが遠い昔にディアに恋をしていたという事実を。
 ……そして、かつて愛したディアに、息子のアディを重ねて見ているという事に。

「父さんなんだね……?」

 エメラの沈黙を肯定と受け取ったアディは、エメラの両肩を掴んだ手の力を緩めて、脱力したように自らの肩と頭を落とした。
 そして再び上げたアディの金色の瞳に滲むのは、怒りでも妬みでもない。……哀しみだ。

「エメ姉。いい加減に、僕を見てよ……」

 力なく震えた声で、今にも泣きそうな瞳で訴える。
 アディが唯一勝てない相手、魔獣王ディア。未だに父を超えられないという現実を逆に見せつけられた。