魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 城門の前でディアにクルスを紹介しただけだが、今日はこれで帰る事にした。
 ディアがエメラの身体を気遣っての事である。

「お言葉に甘えて、これで失礼致しますわ。悪魔男……魔王様にもよろしくお伝え下さいませ」
「はい。魔王サマには私からお伝えしておきます。エメラさん、お疲れでしょうから、よく休んで下さいね。それでは失礼致します」

 最後までエメラを気遣いながら、ディアは背中を向けて魔王の城の中へと入って行った。
 エメラとしても、魔王と顔を合わせずに済んだ事で気が楽になった。魔王とはケンカ友達のような関係だが、会うのは面倒だ。

 とりあえず、今日の任務はこれで完了である。
 ここで終始無言であったクルスが、ようやくエメラに声をかける。

「エメラ様。お体はもう大丈夫なんですか?」
「えぇ、すっかり。帰りは自力で飛んで帰れますわ」

 エメラの清々しい笑顔を見て、なぜかクルスはつまらなそうな顔をしている。アディにもディアにも負けたという、今日の敗北感を認めたくないのかもしれない。

 ……しかし、エメラは不思議に思う。
 魅了(チャーム)の魔法を解くには、アディによってエメラの心身が『満たされる』しかない。それなに、なぜディアの抱擁だけで魔法が解けたのか。

 それは、ディアによって『満たされた』からなのだというエメラの深層心理。ディアへの想いと未練が消えてはいないという証拠でもある。

 それがアディの新たな闇を生み出す引き金になるという事を、今はまだ知らない。