魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 エメラはアディから離れて向かい合うと、礼儀正しく両手を前に揃えて祝辞を述べる。

「ご卒業おめでとうございます、アディ様」

 アディはニコニコして再びエメラに歩み寄る。

「僕は、これからは魔獣界で暮らして働くよ。よろしくね、エメ姉」
「はい。よろしくお願い致しますわ」

 アディは未来の魔獣王を目指している。その理由は幼い頃からずっと変わらない。自分が玉座に座り、その隣にエメラを座らせたい。
 キザなアディだが、ずっと一途にエメラを想い続けているのだ。長寿の魔獣どうしであるからこそ、何百歳もの年の差恋愛も可能なのだ。
 そっと、エメラの耳元に唇を近付けてアディは囁く。

「僕が魔獣王になったら結婚しようね」
「え、あ、アディ様っ……」

 戸惑うエメラに構わず、アディは彼女の細い腰を抱いて強引に引き寄せる。
 エメラはアディの顔を見上げて、いつの間に彼の背はこんなに伸びたのだろうと驚いてしまう。
 幼い頃からのアディを見守ってきたエメラにとっては、その驚くべき成長が感慨深くもある。

「ねえ、キスしよ」
「そんな、ま、まだ、いけませんわっ……!」
「高校卒業したから解禁だよね」
「……っ!?」

 押し退けようと弱々しく抵抗するエメラの片腕を掴んで拘束すると、あっという間に口付けてしまう。
 真っ赤になって茫然自失しているエメラを見てアディは無邪気に笑うと、今度は背中を向ける。
 玉座の間から立ち去ろうとする仕草を見せて、顔だけで振り向く。

「エメ姉、愛してる。そのペンダント、似合ってるよ」

 それだけを言い残して、アディは玉座の階段を下りると出入り口の扉の方へと歩いていく。