魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 エメラの説明を聞いたクルスは納得した様子で感心している。

「へえ、愛を深める……素敵な魔法ですね。その効果は知らなかったです」
「乱用は問題も生じますし、秘密にされる方が多いのですわ」

 エメラとクルスが会話している間も、アディは魔法書を真剣に読み続けている。

「エメ姉、早速だけど、魅了(チャーム)の魔法を教えてよ」
「承知致しました……」

 確実に自分に使われる魅了(チャーム)をアディに教えるなんて、気恥ずかしい事この上ない。しかしどの道、いずれアディは魔獣王として全ての魔法を習得する必要がある。
 しかも横からクルスが入り込んできた。

「よろしければ、僕にも教えて下さい」

 エメラはクルスの方を見るが、呆れてツッコミもできない。まさに開いた口が塞がらない。

(貴方にお教えする訳ないでしょう!!)

 図々しいという問題ではない。この状況でクルスにまで魅了(チャーム)を使われたら、さらに状況は混乱する。
 しかし先にアディが口を出してきた。

「あぁ、クルスくん、もしかして例の『想い人』に使いたいの?」
「はい。ライバルには負けたくないんです」

 もう、どこをどう突っ込んでいいのかも分からない。
 クルスの想い人はエメラの事だし、クルスのライバルはアディの事だ。しかしクルスは、なんと怖いもの知らずなのだろうか。

「うんうん、健気でいいね。じゃあ、一緒に魅了(チャーム)の魔法を習得しようよ」
「はい!」

 恋敵どうしが意気投合してしまった。この二人に自ら同時に魅了(チャーム)を教えるという行為自体がすでに羞恥プレイだ。

 こうして、エメラによる魅了(チャーム)の魔法の伝授が始まった。

 アディは仕事のデスクに着席したままで、その横にクルスが立つ。
 二人の正面にエメラが立ち、魅了(チャーム)の基礎を語る。

魅了(チャーム)の魔法をかけるには、相手に自分の魔力を流し込み、取り込ませる事が必要ですわ」

 アディは授業のようにノートを取りながらエメラの話を聞いている。

「ふぅん、魔力を取り込ませる、か。一番効果的な方法は?」
「…………」

 ここで急にエメラの発言が止まったので、アディもクルスも黙ったままエメラの返答を待つ。重い沈黙が執務室を包む。
 ようやくエメラは意を決して口を開く。


「口移し、ですわ……」


 愛し合う者どうしであれば簡単な事。しかし片思いならば略奪しなければ成功しない。
 狂愛のアディと、執愛のクルス。
 色んな意味でエメラの唇の争奪戦も激化しそうであった。