魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 その時、エメラは目を覚ました。

 目の前には、あどけない寝顔の愛しい王子が寄り添っている。先ほどと同一人物とは思えない。

(また、夢……でしたの?)

 全てが夢だったのか、どこまでが現実なのか分からない。そんな虚ろな朝の日々が続いている。
 添い寝のはずが少し寒く感じるのは、服を着ていないから……そこは夢と同じ。衣服は纏わずとも、婚約ペンダントの青い宝石が素肌の上で存在感を際立たせている。
 少し首を動かして壁際を見るが、拘束されたクルスの姿はない。やはり夢だったのだと、息を吐いて安堵する。

 起き上がろうとして少し動いたが、すぐに後ろからアディがその腰に両腕を絡めて抱きついてきた。

「エメ姉……行かないでよ」

 甘えるような声で引き止めてくるアディの方を振り向く。彼は上半身に何も纏っていない。
 ベッドの上に座っているエメラの後ろから、アディが密着して抱きしめる。
 エメラの腰を捕らえていた両手は、いつの間にか下腹部に触れていた。そして大切なものを扱うような手つきで優しく撫で回す。

「……っ」

 その愛撫に反応してエメラの身体が震える。アディは何度もエメラの腹部を確認するように触れながら、耳に唇を近付けて囁く。

「うーん……まだ感じないや」

 アディが確かめようとしているもの、それは……命の息吹。
 もしエメラが胎内に命を宿せば、魔力の反応で感じ取る事ができる。……アディの血と魔力を受け継いだ、確かな生命反応を。

「でも安心してよ。もうすぐだから」

 アディは片手でエメラの顎に触れると、自分の方へと向かせる。
 そのまま深く唇を重ねて熱を共有させる。まるで花の甘い蜜を吸いながら味わうように。
 目を閉じて受け入れるエメラの意識は、再び甘美な闇へと落とされていく。


「はやく身籠りなよ。エメ姉」


 それは、夢と同じ言葉だった。