魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 アディと夜に添い寝をするようになってからの日々、エメラは記憶がハッキリしない夜がある。

「ねぇ、エメ姉……」

 目の前にはアディの金の瞳と、白く逞しい素肌。その美しさに見とれていると、ふいに口を塞がれて声が出せなくなる。
 やっと呼吸ができるようになっても、熱に浮かされたように意識が遠くなっていく。
 自分とアディが、どこかで寝ているのは分かるのだが、記憶が曖昧で状況が理解できない。

「見てよ、あいつの顔。いい気味だよね」

 アディが視線を横に向けたので、エメラもその視線の先の方へと少し首を動かす。その時ようやく、ここがベッドの上である事を思い出した。
 そして、その視線の先には、手首を縛られて壁にもたれかかり、こちらを凝視している青年の姿が見えた。

(え……!? クルスさん!?)

 だが、なぜかエメラは声を上げられない。その間にもアディは一糸纏わないエメラの身体を侵食し続けていく。……クルスの目の前で。

「ふふ……クルスくん。ほら、しっかり見て。絶望に落ちるがいいよ」

(アディ様、なんでクルスさんに、こんな仕打ちを……)

 こんな事をしなくても、貴方を愛していますと、そう伝えたいのに。
 なんとか両手でアディの肌に触れるが、押し返す力が出ない。エメラの仕草は、まるで彼の身体を愛でているような行為にも見えてしまう。
 抗う術なくアディの背徳な行いを全て受け入れる事しかできない。

「あ、アディ様……」

 ようやく出せた声は、背徳な愛を注ぎ続ける彼の名前だけだった。


「はやく身籠りなよ。エメ姉」