魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 アディは少しも考える様子はなく自然な流れで答える。

「死刑だ」
「え!?」
「……と言いたいところだけど、それじゃ面白くないね」

 ここで初めて、アディはどこか虚空を見つめて考える素振りをした。しかも口元は笑っていて心底楽しそうに。
 しかしアディの発言は冗談には聞こえない。死刑だろうが何だろうが……アディなら、やる。

「エメ姉との絶対的な愛を見せつけて思い知らせるね。再起不能になるまで徹底的に精神を破壊して、死に追い込んでやる」

 簡単には死に至らせないという残忍さを金の瞳に滲ませて、アディは笑顔で語る。
 エメラはこの時アディに対して、先ほどのクルスと同じ恐怖を感じた。アディのそれは、凶悪な狂愛。字で書くなら凶愛だろうか。

「なんなら、そいつを縛り上げて、目の前で僕とエメ姉の……」
「アディ様!!」

 さすがのエメラも怒声を上げる。アディは少しも動じずに素直に黙る。

「あぁ、言いすぎたね、ごめん。じゃあ、仕事しよっか」
「…………」

 この切り替えの早さにも追いつけない。
 ただ1つ、分かった事がある。クルスの想いをアディに知られてしまったら、クルスの命はない。自業自得だから庇う義理はないが、エメラはクルスを死に追いやりたくはない。
 本当は彼のためではない。これ以上、自分の恋愛に罪悪感を背負いたくはないのだ。

 それに……エメラは思う。クルスの恋は、昔の自分の恋と似ている。魔獣王ディアを追いかけて求婚した、あの頃の自分と。
 だからこそ、クルスの気持ちに応えられない立場になった今、まるで罪滅ぼしのように彼を救いたくなる。


 王子の『狂愛』と、後輩の『執愛』に挟まれたエメラの壮絶な日々が始まる。