魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 惹かれ合うのは同種族の本能。エメラは過去に魔獣王ディアを愛し、今は王子アディを愛している。これ以上の罪悪感は積み重ねたくない。

「わたくしは、貴方のためを思って言っているのです」

 アディを敵に回すという事、その本当の恐ろしさをエメラは伝えようとする。それなのにクルスは笑顔だ。

「僕はアディ様にも負けませんよ。不倫、略奪愛……ふふ、最高に楽しいじゃないですか」
「貴方という人は……!」

 クルスがアディに似ているのは容姿だけではない。愛の裏に見え隠れする狂愛……クルスのそれは、どこまでも追いかける『執着愛』だ。
 おそらくアディの髪型や口調を真似したのも、リスペクトの意味ではなく対抗心だろう。

「それでは、僕はこれで。明日からは側近の後輩です。ご指導のほど、よろしくお願いしますね」

 クルスは静かにエメラから離れると背中を向けて、城の出口へと歩いていく。
 しばらく呆然とその背中を見つめていたエメラだったが、ふいに我に返って動き出す。次にエメラが向かうべき場所は当然、アディの元だ。

 急いで執務室に戻ると、アディはデスクに肘をついて暇そうにして待っていた。

「エメ姉、遅いよ」
「……、申し訳ありません」

 エメラは早足でアディのデスクの前まで行くと立ち止まる。主人である王子を側近が見下ろす形になるが、今は形を気にしている場合ではない。

「あの、アディ様。お尋ねしたい事がありますの」
「ん、なに?」

 エメラを見上げるアディの上目遣いは子供のように純粋だ。

「もし……わたくしを奪おうとする男性が現れたら、どう致しますか?」

 ストレートすぎる問いかけだが、もはや言葉を選んでいる場合ではない。