魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 それからさらに、数百年の時が流れる。

 ここは魔獣界の王宮、魔獣王の城。
 城内の一室では、魔獣界の重臣たちによる定例会議が開かれていた。
 中心となって会議を進行させているのはエメラだ。

「最近は密猟者の侵入も増えているようですわ。魔界にも更なる協力を要請して森の警備の強化を進めましょう」

 長テーブルから一人立ち上がり熱弁を振るうエメラの堂々たる姿は、まさに女王の風格だ。
 長寿の魔獣であるエメラは数百年前から見た目は変わらず、現在も20歳ほどの姿のままでいる。

「それでは今日の会議は、ここまでに致しますわ」

 エメラの一言で会議は終了し解散となる。
 エメラは女王のような威厳の顔から一変、乙女のような可愛らしい微笑みを浮かべながら会議室を出る。

 いそいそと早歩きで向かった先は、玉座の間だ。この広間の壇上には、玉座と王妃の椅子が2つ並んでいる。

(まだ……いらっしゃいませんわね)

 誰もいない広間は静寂に包まれている。
 主のいない玉座の前で、エメラは無意味に行ったり来たりを繰り返して歩く。誰かが来るのを待っているようだ。
 ……すると、その時。

「エメ姉~!」

 突然、エメラは背後から腰を両腕でホールドされて思いっきり抱きつかれた。その爽やかな声と感触と体温。振り向かなくても誰かは分かる。

「アディ様、驚きましたわ!! 気配を消すなんて……もう!」
「うん、驚かせたくて。ふふ、エメ姉は本当に可愛いよ」

 魔界の高校の制服である紺のブレザー姿のこの美男子は、王子アディだ。
 エメラが愛した魔獣王ディアと、魔王の娘アイリとの間に生まれた王子である。
 魔獣と悪魔の混血ではあるが、両方の種族の血を完璧に受け継いだアディは、魔獣であり悪魔でもある。
 ブルーグリーンの髪に金色の瞳。父親そっくりの見た目は、まるでディアをそのまま若くしたようだ。
 アディは見た目18歳ほどでキザな言い回しが多く、いつも無意識にエメラを翻弄する。

「高校卒業したから、直行でエメ姉に会いに来たよ」

 魔獣王ディアの一家は魔界で暮らしている。今日はアディが魔界の高校を卒業した記念すべき日なのだ。