魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 会議を終えたエメラが城の渡り廊下を歩いていると偶然、アイリと会った。
 魔王の娘であるアイリは、ディアと結婚後も魔界の城に住んでいる。

「あ、エメラさん、お疲れ様。時間があるなら一緒にお茶しない?」
「まぁ、アイリ様。えぇ、喜んで」

 二人はそのまま、城内のアイリの自室へと向かった。
 アイリの部屋で小さなテーブルに向かい合って座ると、紅茶を飲みながら女子会のノリで世間話が始まる。

「それで、その……アディ様の事なのですが」
「うん。ふふっ、婚約してラブラブなんでしょ?」

 息子の幸せを願うアイリは純粋に嬉しそうにしているが、エメラは複雑な心境だ。
 それ以前に、アディの母親なのにアイリの見た目は18歳くらい。見た目20歳くらいのエメラよりも年下というのも不思議である。
 エメラは、アディの突然の宣言をアイリに報告しようと思った。

「アディ様が、魔獣王になると仰いまして……」
「え、そうなんだ。アディに魔獣界を任せるのは、いいかもね」

 冗談だと思っているのか、アイリはその報告を笑って軽く流してしまった。そして話題を変える。

「エメラさんは、もうアディと一緒に寝てるんでしょ?」
「……え? いいえ」
「え、まだ? 普通は婚約したら一緒に寝ると思うんだけど。私とディアもそうだったし、パパとお母さんもそうだったよ」

 つまり、アイリとディアは婚約したら夜は同じベッドで寝るようになった。そして魔王と王妃も。

「……そういうもの、なのでしょうか?」

 魔界では、婚約したら一緒に寝るという風習でもあるのだろうかと、エメラは少し驚いた。