(まさか病気か? それとも、事故に……。とにかく、彼女の無事をこの目で確認しなければ)


 ジェイドは、リディアの愛を少しも疑っていなかった。

 十歳の頃から兄妹のように過ごし、いつしかそれは恋心へと変化していったが、お互いを思い合っている関係であることに、絶対の自信を持っていた。

 だから、婚約破棄を知らされたとき、最初に抱いた感情は、リディアへの心配だった。

 婚約破棄をしなければならないほど、のっぴきならない事情があったのではないか。
 だからリディアからの手紙は途切れ、返事も来なくなったのではないか。

 もし、彼女が不治の病にでもかかっていたら。
 もし、半年前の自分のように、生死の境をさ迷っていたら――。

 そう考えだしたら居ても立っても居られず、ジェイドは手綱を引いたのだ。

 だが、伯爵家の門を叩いたジェイドを待っていたのは、あまりにも酷い仕打ちだった。


「娘は素性も知れぬ男と駆け落ちし、もう半年も戻っていない。だからどうか娘のことは忘れて、君は別の幸せを見つけてほしい。本当に申し訳ない。この通りだ!」

 すっかり憔悴しきった様子で、自分に頭を下げるリディアの父親。
 その姿に、ジェイドは、全身の血が一瞬にして冷え切るのを感じた。