きっと自分なら、ジェイドを助けられる。
リディアは訴えたが、けれど、父は首を振った。
「リディア、落ち着くんだ。遠征先は、ここから馬で二週間もかかる国境付近。つまり、この手紙が書かれたのは二週間も前のこと。まだ生きていたとしても、既に手遅れだ」
「……っ」
父の言葉が、鋭利な刃物のように、胸に突き刺さる。
(手遅れですって?)
リディアは唇を噛みしめた。指先が酷く冷たい。
それなのに、体の奥では、何かが静かに燃え始めているのを感じた。
(ジェイドがいなくなるなんて、わたしは絶対に認めない)
ここで諦めたら、彼の笑顔も、言葉も、あの温もりも、すべてが過去のものとなってしまう。
それだけは、嫌だった。
(そうよ。まだ、終わりじゃないわ)
父は手遅れだと言ったが、ジェイドはきっとまだ生きている。なら、その希望に賭けてみるしかない。
リディアはゆっくりと立ち上がる。
「わたくし、部屋に戻ります。少し一人になりたいので、今夜は、誰も部屋に近づかないで」
父と母が互いに目を合わせる。母はそっと頷き、父も深く息をついた。
「そうだな。受け入れるには時間が必要だろう。しばらく休みなさい」
その声を背に受け、リディアは居間を後にした。



