二年が過ぎた。

 花々は風に揺れ、空は果てしなく澄み渡っている。
 リディアは丘の上でしゃがみ込み、花冠を編んでいた。膨らんだお腹のせいで少し動きづらいが、気にするほどのことではない。

 するとそんなリディアのもとへ、小径を踏みしめ、ジェイドが丘を登ってくる。

「ここにいたのか。そろそろ屋敷に戻ろう。まだ少し冷える」

 その言葉に、リディアはふわりと笑った。

「待って、あと少しなの。もうすぐ完成するから」

 リディアは黙々と花を編み続ける。
 ジェイドはそんなリディアを、ずっと側で見守っていた。


 しばらくして、最後の花を編み込んだリディアはゆっくりと立ち上がり、完成した花冠をジェイドの頭に乗せる。

 するとジェイドは小さく、「君が被ればいいのに。俺に花は似合わない」と不満げに呟いたが、外そうとしないあたり、まんざらでもないのだろう。

 リディアは笑みを零す。

「そんなことないわ。十分似合ってるわよ」
「そうか?」
「ええ、とっても。花の国の王子様みたい」
「王子? ……そんな柄じゃないんだけどな」
「いいじゃない。とにかく素敵ってことよ」


 するとジェイドは、やっぱりよくわからないという顔をしたが、リディアがいいならいいかと納得したのか、ふっと口角を上げ、リディアに右手を差し出した。

「行こう、リディ」

 その優しい声に誘われて、リディアは迷わず手を重ねる。

「ええ、ジェイド」



 ふたりは並んで丘を降りていった。

 そんなふたりを祝福するように、春風がいつまでも、花びらを美しく舞い散らせていた。


End.