記憶を失くした令嬢が、二度目の恋に落ちるまで


 ジェイドの命を救うため、禁忌魔法に手を染めた過去の自分。
 その代償は"命"ではなく、"ジェイドと過ごした十年間の記憶"だった。

 それはつまり、過去の自分(リディ)にとってジェイドと過ごした日々は、命以上に大切なものだったということで。
 それなのに、記憶を取り戻す代償としてジェイドが犠牲になるとしら、過去の自分(リディ)はどう思うだろう。

 そんなこと、許せるはずがない。

「もしジェイド様に何かあったら、わたしも、リディも耐えられない。なのに、こんなの、あまりに残酷だわ」

 その言葉に、ジェイドの瞳が大きく揺れる。

「……だが、君は、俺のせいで記憶を……」

 言いかけたジェイドを、リディはキッと睨みつける。

「その代償としてあなたを失うことになったら、何の意味もないのよ! そんなこともわからないの?」
「――っ」
「記憶なんていらない。あなたさえいれば、それでいいの! だってわたし、あなたを愛しているんですもの!」

 刹那、ジェイドの瞳が、大きく見開く。

「それとも、わたしじゃ駄目なの?  あなたの記憶を忘れてしまった、今のわたしじゃ……あなたの隣には立てないの?」
「っ、そんなわけ……!」
「だったら!」

 リディアの叫びに、ジェイドは押し黙った。

「二度と、こんな危ない真似はやめて。お願いよ」
「……でも、リディ」
でも(・・)だって(・・・)もないわ! わたしのこと、好きなんでしょう!?」