「…………リ、ディ……?」

 虚ろな瞳が、リディアの姿を捉える。
 ”リディ”――その呼びかけに、涙が込み上げた。

「ジェイド様……どうして、こんな馬鹿なこと……」

 責める言葉を吐きつつも、心の中ではわかっていた。
 ジェイドはこれほどの危険を犯してまで、リディ(・・・)の記憶を取り戻したかったのだ。

 それほどまでに、彼は過去の自分(リディ)を愛している――その事実が、どうしようもなく苦しかった。


 ジェイドは、ぼろぼろと涙を零すリディアをぼんやりと瞳に映しながら、震える指で、リディアの手を握りしめる。

「……泣くな……リディ」

 弱々しく呟いて、リディアに何かを握らせた。
 手を開くと、そこにあるのは、青く輝く魔力石。

「……これ」
「ああ。……それが……最後の、一つ。……これで、君の、記憶……を……」

 うわごとのように、ジェイドは続ける。

「……待たせて……悪かった」
「――っ」 

 ――違う、と、リディアは首を振った。

 待たされてなんていない。
 だって、そんなことを考える暇がないくらい、ジェイドと過ごす日々は幸せだったから。

 リディアの涙が、ジェイドの頬を濡らす。

「いつ、わたしがそんなことを頼みましたか。禁忌魔法の代償が、どれほどのものか知っていて、ジェイド様は、本当にこれでわたしが喜ぶとお思いなのですか?」