リディアは急いで厩舎へ走った。
馬に乗るのは記憶を失って以来初めてだったが、体は迷いなく動く。
(大丈夫。ちゃんと、覚えてる)
リディアは鞍に足を掛け、手綱を引いた。
街に向かう道すがら、先ほどの父との会話が蘇る。
『お前の記憶は禁忌魔法によって失われた。つまり、それを取り戻す方法もまた、禁忌魔法以外にはない』
苦悶を浮かべる父の言葉に、リディアは息を呑んだ。
『禁忌魔法を……ジェイド様が?』
『確証はない。だが、彼はお前の記憶を取り戻すためなら禁忌すら厭わないだろう。私には彼を止める権利はない。だが――リディア、お前ならば……』
「……ジェイド様」
目頭が熱い。視界が滲んで、前がよく見えない。
それでもリディアは止まらなかった。
(止めなきゃ。禁忌なんて、絶対に犯させないわ)
リディアは手綱を強く握り直し、ジェイドの済む邸宅へと雪道を駆けていった。



