翌日、リディアは父から正式にジェイドを紹介された。
ジェイドは遠征先で怪我を負ったため、しばらく休暇を取って療養することになったが、リディアが記憶喪失のために屋敷に籠っていることを知り、護衛兼話し相手役を申し出たのだという。
一時期この街に住んでいたことがあり、地理にも人にも精通していると説明された。
リディアは嬉しい反面恐縮した。騎士を護衛にするなど、一貴族の令嬢には過分すぎる。
けれどジェイドから「ひとりでは、一年の休暇はあまりに長すぎるのです。どうか、私の暇つぶしに付き合うと思って」と冗談交じりに言われ、「そういうことでしたら」と受け入れた。
それからというもの、リディアはジェイドに連れられて、少しずつ外に出るようになった。
街で一番立派な教会や、巨大な図書館、食品から宝石まで何でも揃っている商店街。
緑豊かな公園や、町はずれにある美しい湖。
湖は、冬になると氷の上を滑れるのだと、ジェイドは懐かしそうな目で言った。
何も覚えていないリディアにとって、毎日が新鮮だった。
ジェイドと過ごす毎日が、リディアにとってかけがえのないものになるまでに、それほど時間はかからなかった。



