『お父様、お母様。
わたしは、ジェイドの命を救うため、禁忌魔法を使うことにしました。
だって、彼のいない人生なんて耐えられないから。
代償がどれほどのものになるかは、わたしにもわかりません。
だから、わたしがどうにかなってしまったときのために、この手紙を残します。
もしわたしが命を落としたり、それに近しいことになったときは、ジェイドとの婚約を解いてください。
その際は、「娘は男と駆け落ちした」とでも伝えてください。
酷い嘘だと思うでしょう。でもそれくらい言わないと、彼はわたしのことを忘れてくれないと思うから。
彼には、自分を責めてほしくないの。
それだけが、わたしの願いです。
不肖な娘で、本当にごめんなさい。
今まで育ててくださって、感謝します。
――リディア』
「……君は、俺のために」
手紙を読み終えたジェイドは、自身の愚かさを悔いた。
どうして自分は一瞬でも、リディアを疑ってしまったのか。
彼女の愛を一番に理解しているのは、自分だったはずなのに。
(リディ。俺はもう二度と、君を疑ったりしない。だから……俺と、もう一度だけ)
ジェイドは瞳に決意を宿し、馬車の窓から、夜空に浮かぶ月を見上げた。



