キッズソングの歌番組の収録中の出来事だった。
「これ、渡しておく」
そういわれて渡されたメモだけど、何だろう?
電話番号とラインのID。これ、ナルおにいさんの連絡先? のどかは驚いてすぐに隠した。
連絡しろってこと? 本人に確認してみないと。
「あの、さっきの……?」
「あれ? 俺のファンじゃなかった? のどかおねえさん」
意地悪そうなほほえみ。この人の笑顔は反則だ。
「でも、私、恋愛する気もないですし」
「すぐ恋愛とかいう発想。幼稚だな」
またいじわるな発言。たしかに、連絡先=恋愛はちょっと突拍子がないことかもしれない。
「用事ないですから」
「毎日俺らは昼も夜も会えるけどな。仕事で連絡することあるだろ。とりあえず、メッセージ送れよ」
たしかに、連絡先を知らないのは事実だ。
テレビの仕事はテレビ局の人に。
バーの仕事は前任の店長を通してだったし、急な休みなどもなかったので、あまり必要がなかった。
連絡先を知ることがこんなにもドキドキするなんて。
とはいっても、あくまで彼のことだ。何か別な意味があるはずもない。
仕事として連絡先を知らないと仕事をやりずらいという理由のほかないことは承知の上だ。
そして、突然何事もなかったかのように仕事モードになる。なんて器用な男なのだろう。不器用な人間から見るとうらやましい。
私の胸はどきどき高鳴る。メッセージをなんて送ろう?
メッセージのことで頭がいっぱいだ。
既に神酒さんことナルおにいさんに毒の鎖で巻かれているのかもしれない。
何を送信してもあの人の毒牙が向けられそうで怖いけれど――近づきたい。複雑だ。
その後、無事収録が終わり、打ち合わせをして仕事が終わる。
今日は早めに終わり、夜はバーで仕事がある。
自分たちの都合で営業できるのは、非常に都合がよかった。
幼児向け番組のおにいさんとは打って変わって夜のおにいさんはなんとなく妖艶な気がする。
美しい顔立ちが夜に映える。
店内の照明が神酒のことをいい感じに映し出す。
お客様が入ってくる。
「幸せになりたーい」
婚活中の女性が婚活パーティーのあとにバーに立ち寄った。一杯飲んでから、帰宅しようということらしい。
「マジで婚活って疲れるんですよね。お互い腹の探り合いというか……パーティーの大人数の中から一人を選ぶなんて、難しい話ですよ。第一印象は見た目だし、ひとりひとりに経歴聞くわけにもいかないし」
「婚活ってそういうものですけれど、なぜ婚活をしているのですか?」
バーテンの神酒さんとなると、黒縁の眼鏡に金髪のかつらだが、違和感がない。
幼児向け番組で金髪はちょっとまずいので、地毛は黒髪だ。
正直どちらもかっこいいし、眼鏡姿も素敵だ。
「結婚したいからに決まっているからじゃないですか」
「結婚したいのはなぜですか?」
「好きな人と幸せになりたいからですよ」
「幸せになりたいというならば、こちらのカクテルはいかがですか?」
神酒がメニュー表を指さす。そこには幸せの四葉のクローバーと書いてあり、幸せになるカクテルと書いてある。
「これ、おねがいします」
「幸せになれるように心を込めてお作りします」
イケメンがカクテルを作る姿は神々しい、そんなことを思いながらうっとりする。何をしてもイケメンはかっこいい。
のどかも思ったが、客の女性も同じように感じていた。
視線ひとつひとつに色気があり、彼氏だったらいいなというような紳士的な対応。
特に客の女性がそんな風に思うのは、女性が婚活パーティーで出会った男性にイケメンがほとんどいなかったということもあった。
自然な出会いではないので、どうしても外見から入ってしまう。気晴らしにバーに寄ったのはイケメンを見るための目の保養。
つまりストレス発散の目的もあった。
「どうぞ、幸せになれますように」
そう言って差し出されたカクテルは緑色のきれいな色合いのもので、四葉のクローバーが添えられていた。
「私、幸せになれそうな気がします」
にこやかにほほ笑む女性は満足げに帰宅した。
「ナルおにいさん、彼女も幸せになれますかね?」
のどかが耳打ちする。
「今は神酒さんだろ」
目つきが鋭くなる。やっぱり冷たい。
「幸せは結婚することだけじゃないだろ。幸せの四葉のクローバーは、日常の小さな幸せに気づくことができるカクテルなんだ。だから、彼女が毎日幸せな気持ちに包まれるようにしてあげたよ」
帰り道に空を見上げるといつもよりも星がきれいで、女性の心は澄んだ気持ちに変わっていた。そして、道端の花の美しさやコンビニの店員の優しさなどに触れて、彼女は人生で一番幸せな気持ちに包まれていた。小さなささやかな幸せを感じることができるようになった女性は無敵だ。
星を見る会に入った女性はコンビニの店員と再会する。偶然にも彼は星が好きで会に所属していたらしい。運命はどこでつながるのかわからない。
幸せな気持ちでいると幸運を引き寄せるという事例から、四葉のクローバーのカクテルは幸せをつかむには遠いようで近道なのかもしれない。
「これ、渡しておく」
そういわれて渡されたメモだけど、何だろう?
電話番号とラインのID。これ、ナルおにいさんの連絡先? のどかは驚いてすぐに隠した。
連絡しろってこと? 本人に確認してみないと。
「あの、さっきの……?」
「あれ? 俺のファンじゃなかった? のどかおねえさん」
意地悪そうなほほえみ。この人の笑顔は反則だ。
「でも、私、恋愛する気もないですし」
「すぐ恋愛とかいう発想。幼稚だな」
またいじわるな発言。たしかに、連絡先=恋愛はちょっと突拍子がないことかもしれない。
「用事ないですから」
「毎日俺らは昼も夜も会えるけどな。仕事で連絡することあるだろ。とりあえず、メッセージ送れよ」
たしかに、連絡先を知らないのは事実だ。
テレビの仕事はテレビ局の人に。
バーの仕事は前任の店長を通してだったし、急な休みなどもなかったので、あまり必要がなかった。
連絡先を知ることがこんなにもドキドキするなんて。
とはいっても、あくまで彼のことだ。何か別な意味があるはずもない。
仕事として連絡先を知らないと仕事をやりずらいという理由のほかないことは承知の上だ。
そして、突然何事もなかったかのように仕事モードになる。なんて器用な男なのだろう。不器用な人間から見るとうらやましい。
私の胸はどきどき高鳴る。メッセージをなんて送ろう?
メッセージのことで頭がいっぱいだ。
既に神酒さんことナルおにいさんに毒の鎖で巻かれているのかもしれない。
何を送信してもあの人の毒牙が向けられそうで怖いけれど――近づきたい。複雑だ。
その後、無事収録が終わり、打ち合わせをして仕事が終わる。
今日は早めに終わり、夜はバーで仕事がある。
自分たちの都合で営業できるのは、非常に都合がよかった。
幼児向け番組のおにいさんとは打って変わって夜のおにいさんはなんとなく妖艶な気がする。
美しい顔立ちが夜に映える。
店内の照明が神酒のことをいい感じに映し出す。
お客様が入ってくる。
「幸せになりたーい」
婚活中の女性が婚活パーティーのあとにバーに立ち寄った。一杯飲んでから、帰宅しようということらしい。
「マジで婚活って疲れるんですよね。お互い腹の探り合いというか……パーティーの大人数の中から一人を選ぶなんて、難しい話ですよ。第一印象は見た目だし、ひとりひとりに経歴聞くわけにもいかないし」
「婚活ってそういうものですけれど、なぜ婚活をしているのですか?」
バーテンの神酒さんとなると、黒縁の眼鏡に金髪のかつらだが、違和感がない。
幼児向け番組で金髪はちょっとまずいので、地毛は黒髪だ。
正直どちらもかっこいいし、眼鏡姿も素敵だ。
「結婚したいからに決まっているからじゃないですか」
「結婚したいのはなぜですか?」
「好きな人と幸せになりたいからですよ」
「幸せになりたいというならば、こちらのカクテルはいかがですか?」
神酒がメニュー表を指さす。そこには幸せの四葉のクローバーと書いてあり、幸せになるカクテルと書いてある。
「これ、おねがいします」
「幸せになれるように心を込めてお作りします」
イケメンがカクテルを作る姿は神々しい、そんなことを思いながらうっとりする。何をしてもイケメンはかっこいい。
のどかも思ったが、客の女性も同じように感じていた。
視線ひとつひとつに色気があり、彼氏だったらいいなというような紳士的な対応。
特に客の女性がそんな風に思うのは、女性が婚活パーティーで出会った男性にイケメンがほとんどいなかったということもあった。
自然な出会いではないので、どうしても外見から入ってしまう。気晴らしにバーに寄ったのはイケメンを見るための目の保養。
つまりストレス発散の目的もあった。
「どうぞ、幸せになれますように」
そう言って差し出されたカクテルは緑色のきれいな色合いのもので、四葉のクローバーが添えられていた。
「私、幸せになれそうな気がします」
にこやかにほほ笑む女性は満足げに帰宅した。
「ナルおにいさん、彼女も幸せになれますかね?」
のどかが耳打ちする。
「今は神酒さんだろ」
目つきが鋭くなる。やっぱり冷たい。
「幸せは結婚することだけじゃないだろ。幸せの四葉のクローバーは、日常の小さな幸せに気づくことができるカクテルなんだ。だから、彼女が毎日幸せな気持ちに包まれるようにしてあげたよ」
帰り道に空を見上げるといつもよりも星がきれいで、女性の心は澄んだ気持ちに変わっていた。そして、道端の花の美しさやコンビニの店員の優しさなどに触れて、彼女は人生で一番幸せな気持ちに包まれていた。小さなささやかな幸せを感じることができるようになった女性は無敵だ。
星を見る会に入った女性はコンビニの店員と再会する。偶然にも彼は星が好きで会に所属していたらしい。運命はどこでつながるのかわからない。
幸せな気持ちでいると幸運を引き寄せるという事例から、四葉のクローバーのカクテルは幸せをつかむには遠いようで近道なのかもしれない。



