越えられない塀
何度も壊そうとしても
ずっと同じように立っていた
まるで氷のように
冷たくて強かった


男が居なくなった後、私たちは鍛冶屋に戻った。
阿修羅は未だ意識を戻さず、鞠弥さんが看病をしている。
そんな中、私は草兎くんにあの男について聞こうとした。

「話って何?」

「さ、さっきの男について知りたいんだけど?」

草兎くんは目を見開く程、驚いたのか私の目を見ようとしない。
だって、あの男は阿修羅を知っていた。
会ったばかりだけど、彼が不安だった。
すると、

「‥あいつは夜月、昔の仲間だったんだよ」

男の名は夜月(ヤヅキ)と言うらしい。
夜月について草兎くんが話をするが、何故かその表情に笑みはなく、寂しさだけが浮かんで見えた。

「それに夜月が持つ暗魅、あれは鷹史様の最高傑作の短刀でもあるんだ」

「え‥!?」

「前はあんなんじゃなかった。あの男さえ居なければね」

そう言って草兎くんは口を堅く閉ざした。
あの男、もしかして水の主のことかな?
夜月が昔の仲間だったのに、貴方たちはどうして戦ったりするのだろう。
私は草兎くんにお礼を言い、その話には触れないことにした。