私に恋を教えてくれませんか?


○翌日・放課後の教室

教室内で結菜の席まで行って声をかける蒼。
蒼「結菜、一緒に帰ろ」王子の笑み
結菜「っ!?」
男子B「おま、なんで桜庭さんと……!?」
結菜の肩に腕を回す蒼。
蒼「俺たち、付き合うことになったから」
結菜モノ(ひ、ひええええ……っっっ)
教室にいる、華恋・男子AB・その他クラスメイトが仰天している。


○土手・夕方

座りながら話す二人。
蒼はギターのチューニングをしている。
結菜「あの……天ヶ瀬くん」
結菜「皆に言っちゃってよかったの? わ、わわ、私たちが付き合ってるって……!」
結菜モノ(学校中の王子ファンに虐められる……)泣
蒼「蒼だろ」
結菜「あっ、あ、あ、あ……蒼、くん」
蒼「なぁに? 結菜」王子の笑み
結菜「ひいっ」怯え
蒼「皆に言ったほうが恋してる感あるだろ。ドキドキした?」にや
結菜モノ(別の意味でドキドキしたというか……)
結菜モノ(昨日、蒼くんは告白の後)


○昨日の回想

結菜「あの、なんで……私と付き合うって……?」
蒼「疑似恋愛をすればお互いの創作活動が捗るじゃん」
蒼「あんたは恋愛小説のため、俺は作詞をするため。Win-Winだろ」

結菜(そんなこんなで初めての彼氏ができました)


○付き合ってから二週間経った今までの回想
結菜モノ(付き合い始めてから、毎日のように放課後に集まって、土手に行ったり映画見に行ったり本物の恋人のように過ごした)


○現在の時間軸に戻り、土手・夕方

弾き語りをする蒼を見る結菜。
結菜モノ(中身怖いけど……やっぱり弾いてる姿、かっこいいな)ドキドキ
歌い終わった蒼におずおずと話しかける。
結菜「ねえ。どうして、学校では王子を演じてるの?」
蒼「別に演じてねぇよ。周りが勝手に騒いでるだけだろ」
蒼「中学の時喧嘩ばっかしてたら内申点悪くて受験苦労したから。大学受験は楽に推薦でいけるように、ただお行儀よくしてるだけ」
結菜「……っ」
結菜モノ(王子の虚像が崩れていく……)

ギターを地面に置く蒼。
蒼「そうだ。再来週、ここで花火大会があるから一緒に行こ」
結菜(……花火! なんだか物凄くデートっぽい)
結菜「はい、師匠! 喜んで!」
結菜のほっぺをつねる蒼が、凄む。
蒼「蒼、な」
結菜「ひいいい」

蒼「なあ、俺と付き合ってて困ってることない?」
結菜「ええと……あんな地味な陰キャがなんで王子と……と言われました」
結菜モノ(付き合って二週間、祝福してくれたのは華恋ちゃんだけ。何度も呼び出されたり虐められたりしたけど、でも――)
結菜「ま、まるで! ヒロインを虐める悪役みたいな子がいっぱいで、非常に参考になりましたッ!」嬉しそうにキラキラした顔
蒼「は?」
結菜は蒼にほっぺを潰される。
蒼「俺以外に、結菜を虐める奴がいるの? 許せねえ」
(名前、初めて……呼ばれた)赤面
蒼「俺の結菜はリスみたいで可愛いのにな」
(どうしよう、今すごいドキドキしてる)
蒼「今度からなんか言われたら俺を呼べ」
(心臓が胸から飛び出しちゃいそう)
蒼「……返事は?」
結菜「ひゃいっ」


○花火大会、土手に続く道の両脇に屋台が並んでいる・夜

結菜「あれ? ギター持ってきたんですか」
蒼「スタジオ入ってたから」
手を差し出す蒼。
蒼「ほら、手。とっておきの穴場に連れてってやるよ」
結菜「は、はいぃ」
手を繋ぐ二人が、屋台の間を抜けて行く。
結菜モノ(手を繋ぐだけで心臓が爆発しそう)
結菜モノ(指先が分厚い。ギターを弾く人の手だ)


○土手の近くにある小さな公園のベンチ

焼きそばとたこ焼き、いちご飴を買った二人。
花火が打ち上がっているのがよく見える。
結菜「わぁ……!」
蒼「いいだろ? ここ」
周りに人がいない。
いちご飴を持ちながら、蒼の曲を口ずさむ結菜。
その上手さに目を見開く蒼。
蒼「……びっくりした。歌、上手ぇな」
結菜「え!? 今、口に出てた!?」恥
蒼「透明感があって綺麗な声。発声がしっかりしてて俺の曲キー上げしても高音が伸びてた」
結菜「へへ、私今は帰宅部だけど。中学では合唱部だったんだ〜」
そう語る結菜を眩しそうに眺める蒼。

結菜モノ(そういえば……)
結菜「蒼くんて、TikTokやらないの?」
蒼「ああ〜めんどくて」
結菜モノ(ギター弾くとこは、私だけが知っている蒼くんの秘密。でも……)
結菜「蒼くんの一番格好いいところを独り占めするの、勿体無いなって。きっと皆、私みたいに夢中になるから!」強い熱量
蒼「ん、ありがと」照
蒼「あの、さ……本気で小説家目指してる結菜見て、俺もプロ目指して頑張ろうと思い始めたんだ」
結菜「ほ、本当っ!? 応援してる!」
蒼「だから俺を、世界一格好よく撮ってよ?」
「うんっ!」
花火を背景に弾き語りする蒼。それをスマホで撮影する結菜。
二人でTikTokに動画をアップする。


○翌日・学校の教室

浮き立っている教室内。クラスメイトはスマホを見ている。
結菜モノ(なんか騒がしいような)
モブ女子「ねえ見た?」
モブ女子「見たみた! 王子超格好よかったね」
華恋「ねえ、結菜! これ……」
結菜「え?」
結菜にスマホを見せる華恋。
昨日花火をバックにして撮った蒼の弾き語り動画がTikTokでバズっていた。
開設して僅か1日でフォロワー五万人に。
結菜モノ(蒼くんが、世界に見つかってしまった)
自分から言い出したことなのに、胸を痛める結菜

結菜モノ(それから即事務所からスカウトされて忙しくなった蒼くんは、街で声を掛けられたり、レッスンを受けるのに忙しくなった)
結菜モノ(そして――)

○土手・夕方

土手に座る二人。
蒼「ごめん、結菜。今度恋リアに出ることになった」
結菜「っ」
蒼「別れてほしい」悔しそうに拳を握りしめる
結菜モノ(――ああ、胸が痛い。私、蒼くんのこと……とっくに好きになってたんだ)
結菜モノ(別れたくない。でも、蒼くんの重荷にはなりたくない)
結菜「……そっか……応援、してるよ」眉を下げてへにゃりと曖昧に笑う

結菜モノ(こうして蒼くんは、あっというまに手の届かない人になったのでした)

結菜「じゃあ、頑張ってね。私も夢を叶えるために頑張る」
蒼「結菜」
立ち上がる結菜の手首をとり引っ張る。
蒼太も立ち上がり、よろける結菜を抱き抱える。
そして突然、蒼からキスをする。
蒼「いつか結菜の小説が実写化したら、俺が主題歌書く」
結菜「っ、うん! 約束」涙
指切りをして、今度こそ別れた。

結菜モノ(私の奇跡のような初恋は、これで幕を閉じた)
結菜モノ(世界へ羽ばたけ、蒼くん)
結菜が去った後、蒼は静かに涙を流し、拳を握り締めていた。


○結菜の自室・夜

恋リアに出て、ギター弾いてる蒼の動画を見て、スマホを置く。
スマホの上には結菜の涙が。
結菜は必死にパソコンで小説を書いていた。


○大学の門・朝

結菜モノ(二年後の春)
大学に入学した結菜と華恋。二人はメイクして可愛い格好をしている。
周りにはサークル募集のビラを配る人たちがいる。
華恋「結菜可愛い。一気に垢抜けしたね」
結菜「へへ、華恋ちゃんも一段と可愛い」
華恋「よし。新しい出会いもあるだろうし、大学で彼氏作るわよ!」
結菜「うーん、私はいいかな……」
華恋「何、まだ王子が忘れられないの?」
結菜「私には大事な夢があるからね」
そこでスマホの通知がきた。
ふいに結菜が速報のニュースを見ると、驚いて目を見開く。
結菜モノ(恋リアからブレイクした蒼くんはすぐデビューして一躍時の人になった)
結菜モノ(なのに――)
結菜「どうして」
結菜が見ていたのは、天ヶ瀬 蒼 芸能活動休止のニュースだった。