恋心はシェアできない

「俺らも狐見られたらいいな」

彼がいつもの調子でサラッと言った言葉に、相変わらずドキッとすると共に、さすがに一体どういうつもりなのかと聞きたくなってくる。

「ねぇ。さっきから思ってたけど……」

「ん? 何かあった?」

「その、なんで恋人同士じゃないって言わなかったの?」

「今日デートじゃん」

「な……んて……?」

「今日くらいいいかなって。ダメだった?」

(う……っ)

デートというワードを惜しげもなく出した上に小首まで傾げて来る目の前の天然人たらしの彼に完敗だ。

「ダメじゃないけど……その」

「その?」

うまく言えないがダメなんかじゃない。今日一日だけとはいえ、むしろ願ったり叶ったりの設定だが碧生の彼女役は荷が重い。


(もう少しでいいから可愛かったら良かったのにな……)

「もしかして俺の彼女と思われんの、ものすごーく嫌だとか?」

「それはないけど……」

「良かった。じゃあそうゆうことで」

「え、人の話最後まで……」

「冷めるよ。食べよ?」

「うん……」

碧生の笑顔に押し負け、いただきますをして私もお箸を割る。

そして早速、うどんを舌鼓する。

「んんっ、おいひ~」

あっさりとした鰹節のお出汁にモチモチで少しだけ太めのおうどんの相性は最高だ。

「ほんと上手そうに食うよな」

「そういう碧生だって、もう食べ終わるじゃない」

「まあな。てかさっきの女将さんの話、どう思った?」

「言い伝えの話はキャッチコピーに生かせそうだなって」

「俺もそう思う」

「あとこの可愛い狐のおうどんは絶対映えるし、広告にいいと思う」

すでに私の頭の中には狐をイメージしたデザインがいくつか頭に浮かび始めている。


「咲希、いい顔してる」

「え?」

「そういうなんていうか、子供が新しいオモチャ貰ったときみたいな顔」

「それ褒めてる?」

「褒めてるよ。俺は好き」


その言葉に意味なんてない。

ドキドキなんてしたくないのに、やっぱり胸がドキンとして苦しい。

(ほんとズルいな)

(私ばっかりが好きで、この気持ちに行き場はないのに)


でも、理論も方程式も常識も関係なく、気づけば芽生えてるのが“恋”なのかもしれない。

大昔、狐の神様が人間の女性に一目惚れしたように──。