恋心はシェアできない

「あの。この神狐市って昔は狐が見られたんですよね?」

私はこの企画に応募すると決めたときから神狐市のことはパソコンで調べて見たが、今も狐が見られるという情報はどこにもなかった。

「ええ。私が子供の頃は毎日見かけることができたんだけど……最近は滅多に見られないわねぇ」

「そうですか。野生の狐が見られると知ったらもっと多くの人がこの地に来てくれるかもと思って……」

「あ、でも」

女将さんが手のひらを拳でポンと叩くと、何かをひらめいたような顔をした。


「滅多に見られないのはそうなんだけど、全く見れないわけじゃないのよ。それに素敵な言い伝えがあるの」

「言い伝え?」

碧生の疑問符に私も興味津々で女将さんを見上げる。

「大昔、狐の神様が人間の女性に一目惚れをしたの。狐の神様はその女性と添い遂げるためにこの地に降り立ち、生涯連れ添い幸せに暮らしたと言われていて、それから恋人同士の二人がこの地で狐を見ることができたら、生涯結ばれると言われているのよ」

「わぁ……素敵」

私の言葉に女将さんが口元を隠しながら笑うと頬を染める。

それを見た碧生がすかさず口を挟む。

「もしかして女将さんとご主人も狐を見られたんですか?」

「あら、やだ! なんで分かったの~」

女将さんは口元を手で隠しながら、にこりと微笑む。

「素敵ですね。言い伝え通り、生涯一緒に過ごせるなんて」

「もう三十年ほどまえの話だけどね。お二人にも神狐様のご縁がありますように。じゃあごゆっくり」

私と碧生が会釈をかえすと、女将さんは調理場へと戻っていく。