恋心はシェアできない



「か、かわいい!」

私は思わず目の前に置かれた、熱々のうどん鉢に向かって声を上げた。

私たちが女性に案内されてやってきたのは商店街の中にあるうどん処『(えにし)』だった。

女性はこの店を切り盛りする料理人であるご主人の奥様で、この店は三十年ほど前から夫婦で営んでいるらしい。

「あのこちら写真撮っても大丈夫ですか?」

「ええ。どんどん会社で宣伝して欲してもらえたら嬉しいわ」

先ほど、ここへ来る前に私たちは広告代理店に勤めていて、この町のPRに関する仕事の取材できたことを明かしたのだ。

私は目の前のこの店一番のオススメである“縁結びうどん”にスマホを向ける。


「こんな可愛いおうどん初めて見ました。ナルトが狐の形なんですね」

「えぇ、この商店街の先には狐を祀っている“神狐大社(かみきつねたいしゃ)”があって。その神社は縁結びが有名なの」

「へぇ、狐の神様による縁結びですか」

碧生が割り箸を割りながら会話に入ってくる。

「そうなの。神社には可愛らしい狐が刺繍された縁結びのお守りもあるから、よかったら」

「咲希、あとで行ってみよ」

「う、うん」

碧生は取材を兼ねてきたことは明かしたが、恋人同士ではないことについては訂正しなかった。私たちを恋人だと勘違いされていることも碧生は全く気にした様子がない。


(いつもの人たらしの延長、よね)

(今は私も取材に徹しよう)