恋心はシェアできない

声をかけてきたのは地元の方だと思われるご婦人だった。

「あ、いや……」

「いいんですか? ありがとうございます」

断ろうとした私とは対照的に碧生は営業スマイルを浮かべながら、自分のスマホをその女性に手渡すと、私の隣に並ぶ。

コンコンと一緒に撮影するため、背の高い碧生が屈んで私の後頭部が彼の肩に当たる。

(近すぎ……)

「はい、じゃあ撮りますよー」

女性の掛け声が聞こえて、碧生が私に耳打ちする。

「笑かそうか?」

「やめてよ」

そう言いながらも彼のたったその一言で、緊張が緩んで顔が引き攣らずに済みそうだ。私は口角を引き上げる。

そしてカシャっと言うシャッター音が数回、鳴り終わると碧生がお礼を言いながらスマホを受け取った。

「お二人は観光ですか?」

「そうです。とてもいいところですね」

「そう言って頂けると地元民としては嬉しいですね。商店街には美味しいお店もあるので良かったら」

「ちょうどお昼を食べようと思ってたんです。おすすめのお店があれば教えて頂けませんか?」

碧生のスマートかつ情報収集能力に見惚れていると、女性が柔らかく笑った。

「それでしたら、うちのうどん屋に来てくださいな。恋人同士のお二人にピッタリのメニューがあるんです」

(い、ま恋人って……)

「本当ですか! ぜひお願いします」

(はい?!)

私が物凄い勢いで碧生を見上げると、彼は悪戯っ子のような笑みをこちらに向けた。