恋心はシェアできない

「その商店街って神狐市(かみきつねし)だったっけ」

「そう、昔ながらの旅館や民宿もあって古き良き時代を感じさせる場所ではあるんだけど、近くに観光スポットが少ないことが一番大きな要因で観光客が激減してるらしいの」

「……なるほどな。行くか!」

「へ?」

私は聞き間違いかと思い、間の抜けた声を出した。

「明日休みだし、連れてってやるよ」

「え、みんなで?」

「俺と咲希のふたりで」

碧生はピースサインをしながら平然とそう答える。

確かに他部署の梓と翔太郎君には関係のない話だ。でもそれを言えば同じ部署でも営業担当の碧生にも直接関係はない。 

「いや、でも……悪いし」

「困ってる時はお互い様が『タマコの家』のモットーじゃん」

「それはそうだけど……」

「咲希とふたりで出かけたことないし、行きたいなって」

「……な……っ」

慣れたつもりでも、この碧生の人たらし故の発言は爆弾と一緒だ。私は顔が熱くなりそうで手のひらでパタパタと仰いだ。

「ん? 熱い?」

「食後、だから」

「やっぱ熱あるとか?」

碧生は長い腕を伸ばすと私の額めがけて手を伸ばして来る。私はさっと彼の手のひらを交わした。

「大丈夫」

「ならいいけど」

「百聞は一見にしかずって言うしさ。パソコンとにらめっこしてるよりはいいアイデア振ってくるかもよ」

「でも……」

「あ、ごめん。もしかして彼氏と予定あった?」

「そんな人、いないから」

ここまで強引に話を進めておいて、悪気なくこういうことを聞くところもやめてほしい。

「良かった。じゃあ行こ?」

(良かった?)

思わずどういう意味かと思ったが、私が碧生にとって同期という存在以上の可能性はない。

「うーん……」

(二人きりとか……)

「はい。時間切れ。決まり~」

「え、ちょっと……」

「楽しみだな」

碧生が茶目っ気たっぷりでそう言うと、ごちそうさまのポーズをしながらニッと笑った。