恋心はシェアできない

「明日の朝は咲希が大好きなフレンチトーストにするな。牛乳と蜂蜜たっぷりで」

「ちょっと、話聞いてた? 私を太らせようとしてるじゃない」

「でも好きだろ?」

碧生は形の良い唇を持ち上げると私ににこりと微笑む。こういうところが本当にズルい。

私のことなんてただの同期にしか思ってないくせに、破壊力抜群の笑顔まで勝手に披露してくる。私は視線を逸らすとスープを飲み干した。


「どうだったかな。ごちそうさま」

可愛くない返事。可愛くない態度。ついでに言えば、アニメの声優さんみたいに可愛い声でもない。

「素直じゃないね~、ま。作るけど~」

こんな素直で可愛くない奴ほっといたらいいのに、なんて心にもないことが一瞬だけよぎる。だって、どんどん好きが大きくなって閉じ込めておくのが大変だからだ。

この気持ちはどうやっても天地がひっくり返っても叶わない。

届かないのを私は知っている。

私は以前、偶然立ち聞きしてしまった翔太郎くんと碧生の会話を思い出しそうになって慌てて脳裏からかき消した。

「なぁ、今やってる企画ってツナグ旅行の案件だよな?」

「うん。この間、うちの部署で企画募集してたから応募してみようかと思って」

ツナグ旅行は、得意先のひとつで中規模の旅行会社なのだが、最近は各地の地元企業と協業で町おこしに力を入れている。
今度の企画はある海沿いにある商店街を復興させるべく地元の特産品を使った料理やスイーツをうちで広告制作してPRして欲しいというものだった。