合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 最初は彼女の勢いに押され、しかたなく椅子に座り勧められるままテーブルに並べられた料理を食べた。それを繰り返している内に、最近では彼女の料理を食べるのが当たり前になりつつあるし、時間が合えばふたりで食卓を囲むことすらある。さらにこうして弁当まで持たされるようになるなんて。

(まぁ、弁当はコンビニに買いに行く手間が省けて助かっているし、彼女の料理を食べるようになってから体の疲れも取れやすくなったのも事実だ。なによりうまい)

 これまで悠磨にとって食事は口に入ればいいもので、内容や味はそれほど重要ではなかった。

 人より体力も集中力もあると自負していたが、体調がよくなったということはやはり正しい食生活は健康に欠かせないということなのだろう。

(患者には、『栄養バランスを考えて食事をとりましょうね』なんて指導しているのにな)

 ピーマンの程よい苦みを味わいながら悠磨は心の中で自嘲した。

 悠磨は母の作る家庭料理の味を覚えていない。五歳のとき両親は不仲で離婚し、母は兄弟を置いて家を出て行ったからだ。その数年後母は新しい家庭を持ち縁は途切れた。