合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 キッチンは十分な広さがあり、食器洗い乾燥機やディスポーザーなどの最新設備も整っている。しかしシンクはピカピカ、炊飯器や調理道具は見当たらず、辛うじて電子レンジと電気ポットがあるだけだ。さらにダイニングスペースにはテーブルも椅子もない。

 冷蔵庫を覗いてみたら、ミネラルウォーターとゼリー飲料がぎっしり詰まっているだけで、他に食材は見当たらない。

(まずい。なんだか嫌な予感がする)

 落ちつかなくなった鈴菜はリビングの大きな窓辺に立ち外に視線を向ける。そこには白く巨大な建物が見え、〝応際大学医学部付属病院〟と掲げられた文字が存在感を放っている。ここからなら、徒歩十分程度で行けそうな距離だ。

「……とりあえず、片付けを終わらせよう」

 鈴菜は頭を振って自室に戻り作業を再開した。



「おかえりなさい。お疲れさまです!」

 夜十時、玄関で出迎えた鈴菜の顔を見て、悠磨は一瞬目を見開いた。まさか、今日引っ越してくることを忘れていたのだろうか。
「今日からしばらくお世話になります。よろしくお願いします」