合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 「物が無さすぎやしませんか……?」

 鈴菜はリビングに立って独り言ちた。

 結婚式から二週間後の今日、鈴菜は久々の休暇を取り悠磨のマンションへの引っ越しを行った。

 半年間の結婚期間なので、元の家はそのまま賃貸しておこうかと思ったが、『結婚するのに元の家を借りていたら不自然だ。引っ越し費用はこちらでぜんぶ負担するし、業者の手配も指示もしておくから引き払ってくれ』と迫られ、反論できないまま1Kのアパートから3LDKの高級賃貸物件へ移り住むことになった。

 与えられたのは玄関側のゲストルーム。鈴菜はここで業者が運び入れてくれた段ボールを開いた。断捨離してから引っ越したつもりだったが、数はそこそこあった。二時間ほど作業を続け、一息入れるために重くなった肩や背中を伸ばしつつ向かったリビングで出たのが冒頭の言葉だ。

 三人掛けの大きなソファーとローテーブルだけが置いてあり、サイドボードなどの棚はもちろん、テレビも見当たらない。
 モデルルームの方がまだ物がある気がする。一方床にはゴミ一つ落ちていない。

(え、この家本当に人住んでる?)