合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

『このあとはお互い口裏を合わせながらうまくフェードアウトを図りましょう。オンラインでのやりとりで済みますね。離婚はいつしたことにしましょうか』

 あっさりした態度に妙な焦燥感を覚えたのは、彼女が結婚式後のことを楽観的にとらえすぎて心配になったから。脇が甘いとここまでやったことが水の泡になりかねない。

 そのとき悠磨は葛西教授に言われた『新婚早々別居なんて普通はありえない』という言葉を思い出した。

 だったら〝普通〟にすればいい。

 式だけ挙げ、あとはうやむやにするなどという中途半端な対応より、実際結婚して離婚した方がわかりやすいし都合がいい。離婚後は傷心を理由に大手を振って独身を貫ける。いい考えだと思いその場で実行を決めた。

 こうして、悠磨は結婚式を挙げたばかりの新婦に結婚を迫り、戸惑いながらも彼女は受け入れた。

 すぐに役所に婚姻届を提出し、お互いの職場での手続きも済んだ。そして今日から自分たちは新婚夫婦として暮らし始める。

(まあ、実際は離婚前提の仮面夫婦だが)

 今のところなにもかも順調だ。これで前にも増して仕事に集中できる。悠磨は軽い足取りで医局に向かった。

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