合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

「結婚式から二週間くらいしかたっていないのに、相変わらず病院にこもりきりらしいな。奥さんはどうしているんだ?」

 巨大病院の外科全体を統率するだけあって、葛西教授は多くの人脈と情報を持っている。学生時代から目を掛けてきた悠磨が仕事ばかりなのが気になるようだ。

「葛西先生のご助言通り、彼女を僕のマンションに呼びよせることにしました」

「おお、いいじゃないか。やはり、新婚早々離れるのはよくないからね」

 葛西教授は途端ににこやかな表情になる。

「はい。おかげさまでいい選択ができました」

「これからも期待しているが、仕事のしすぎで奥さんに愛想をつかされないようほどほどにな」

「肝に銘じます」

 悠磨は笑顔で頭を下げ、歩き去る葛西教授を見送る。

 きっと教授は思いもしないだろう。嘘の結婚式を挙げた相手と本当に結婚したのは、その仕事に注力するためだったなどと。

(そろそろ引っ越しを終えた頃だろうか)

 通りかかったナースステーションの時計を見て悠磨は自宅を思い出す。今日はまさに鈴菜の引っ越し当日だった。

(物が少ないと驚いているかもしれないな)