合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

「それに、君だって住所変更や名義変更をしなければ職場や家族に不審に思われるだろう」

「なんとかなるかなって、思ってました」

 とにかく結婚式を乗り越えたいという気持ちが強すぎて、その後は、うやむやに時が過ぎるのを待とう、くらいの甘い考えでいた。
「特に土谷に変な隙を見せたら一気に付け込まれるぞ。実際結婚していないことがバレたら、今までのこともぜんぶ暴かれるかもしれない」

「そ、それは困ります!」

 思わず声が上ずる。もしそうなったら最悪のケースだ。考えただけでゾッとする。

「だから思い切って本当に結婚して、一緒に暮らしてしまえばいい。嘘をつかなくてよくなるから、君もその方が精神衛生上いいし、俺と同じく仕事に身が入るんじゃないか」

 これ以上嘘をつかなくていいというのは、鈴菜にとってかなり魅力的だ。

「でも、悠磨さんは一時的にでも私と結婚していいんですか?」

「結婚式まで挙げたんだ。〝毒食らわば皿まで〟って言うだろう?」

 物騒な例えを口にして不敵な笑みを浮かべる悠磨。今日一日柔らかい笑顔で会場中の女性を虜にしていた新郎と同一人物にはとても見えない。