合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 嘘の結婚式を挙げた女があの店にいたら悠磨は微妙な気持ちになるだろうし、事情を知っているとはいえ、いや知っているからこそマスターも鈴菜を扱いづらいだろう。

 今日のお礼に行くのを最後にしよう。あの場所を失うのは寂しいけれど、自分のしたことの結果だから仕方ない。

 つらつらと考えていた鈴菜だったがふと悠磨から反応がないことに気づく。

「あの、悠磨さん?」

 向かい側に座る悠磨は腕組みをしてなにかを思案している。少し機嫌が悪そうに見えるのは気のせいだろうか。

「疲れましたよね。すみません。すぐに終わらせますから」

 今日ふたりはこのホテルに泊まる――というのは表向きで、実際はホテル内のレストランでこれからのことを決め次第解散する予定だ。

 彼も早く帰って家で休みたいだろう。そう思い鈴菜は話を続ける。

「このあとはお互い口裏を合わせながらうまくフェードアウトを図りましょう。オンラインでのやりとりで済みますね。離婚はいつしたことにしましょうか」

 すると悠磨の眉間に皺が寄った。不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。

「悠磨さん、なにかお気に召さないことが……」