合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 すると葛西は「まあいい」と言って悠磨の肩を叩いた。

「実は、六月に僕が執筆した本が出るんだ。出版記念パーティを開くつもりだから招待状を出すよ。よかったら夫婦で来てくれ」
「はい、是非」

 悠磨は笑顔で返したが、現実的には難しいだろう。

 新居が見つかるまで別居を続ける体で時間を過ぎるのを待ち、頃合いを見て彼の忙しさとすれ違いを理由に離婚したことにする。これがこのあとの筋書きだ。

 実際には婚姻届は出さないから、離婚もなにもないのだけど。

(細かいことは、式が終わったらきちんと悠磨さんと決めておかなきゃ)

 そんなことを考えながら鈴菜は笑顔で立ち続けた。


「ほんっとうに……ありがとうございました!」

 高級ホテルのイタリアレストランの個室で鈴菜は悠磨に深々と頭を下げていた。

 今日の予定はすべて無事終了した。

 結婚披露パーティは終始和やかで温かい場になり、リラックスするゲストの笑顔を見て鈴菜は心から安堵した。見せかけの式や披露宴でも、せめて楽しんで帰ってもらいたかったから。

 土谷は結局声を掛けてこなかったが、お見送りのときに一度だけ言葉を交わした。