合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 一方、土谷はすました顔をしているが、こちらには一度も近づいてこない。そもそも悠磨が衣装の試着にウエディングサロンを訪れた日から話しかけてこなくなったし、嫌味なメッセージも届かなくなった。

 招待客のラインナップは悠磨の恩師や病院関係者も名を連ねている。ここまで〝本物〟を目の当たりにすると、代役を疑う余地もないのだろう。

(きっと私にはすぎた結婚相手だと思っているわね。実際そうなんだけど)

 心の中で苦笑して隣に視線を移すと、悠磨はバーカウンターの方を見ていた。

 そこでは笑顔の純也が手早くカクテルを作って渡している。バーに行ったことのない人には目の前シェーカーを振る動作も珍しいようで、みんな楽しそうだ。

「悠磨さん、私たちもカクテルもらいに行きましょうか」

「ああ」

 悠磨に声をかけ、立ち上がったタイミングでひとりの男性が近づいてきた。

「望月先生、結婚おめでとう! いい披露宴だな」

「葛西先生」

 そこに立っていたのは六十代前半くらいの小柄な男性だった。横には夫人が寄り添うように立っている。
 悠磨は「今日はありがとうございます」と丁寧にあいさつをした後、鈴菜の背中に手を添えた。