合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 土谷は鈴菜より三歳年上の三十二歳。二年半ほど前、他のホテルから鈴菜の勤めるゲストハウスに異動してきたのをきっかけに知り合った。
まだ珍しい男性ウェディングプランナーの土谷は、明るくノリのいい人柄で、お客様をその気にさせ高い金額の契約をとるのがうまく営業成績も上々。相手の状況を細かく配慮する鈴菜とは違ったタイプだった。
 仕事で相談し合う内に土谷の方からアプローチされ、受け入れる形で付き合い始めたのが二年前。『仕事がやりにくくなるのは困るから周りには黙っておこう』と言われ、鈴菜も納得しふたりの交際は職場では公にしていなかった。

 交際を始めると、土谷はなにかと鈴菜に細かい事務作業などを頼むようになった。
『忙しくて手が回らなくて。簡単でいいから見積もり纏めてくれないかな』や『あそこの花材業者、君の方が顔がきくからこれ問い合わせておいて』など徐々に依頼は増えていった。

 鈴菜は自他とも認める世話焼き気質だ。元々の性格もあるかもしれないが、幼いころから両親が共働きで、三歳下の弟の面倒を見ていたのも影響している。
 でも困っている人を放っておけない自分の性格は嫌いではなかった。