合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 だがあの日――危険なペースでカクテルを飲み干している鈴菜を見ていられず、思わずグラスを取り上げた悠磨はとんでもないことを言い放たれる。

『私と結婚してくれませんか! ふりだけでいいんです。結婚式と披露宴だけして、あとはいい感じに夫婦を装って頃合いを見て別れたことにしたいんです』

 面食らった。酔っているとはいえなにを言っているんだろうと。しかしすぐにやってきたのは〝おもしろい〟という感情。それまで仕事以外に興味や魅力を感じたことがなかった自分としては新鮮な感覚だった。彼女がどこまで本気かわからないが、受け入れてみたらもっとおもしろくなるかもしれない。

 悠磨は自らのフィーリングに従い、その場で鈴菜からのプロポーズ――実際は嘘の新郎役を受け入れた。

 受け入れられた方の鈴菜は逆に面食らっていたが、結局腹を括った。

『是非、お力を貸してください』

(最初はかなり戸惑っていたのに、俺に言い切った鈴菜の表情は、まるで覚悟を決めた武士だったな)

 真剣な表情を思い出して、フッと笑みが浮かぶ。

 こうして嘘の結婚式実現に向けて計画は進み始めた。