合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 仕事、特にオペ技術については納得するまでとことん突き詰め、日々研鑽を欠かさない。

 家族や同僚たちは仕事熱心すぎる悠磨にあきれ、働き過ぎを心配する。しかし悠磨としてはやりがいのある仕事を突き詰めているだけだから苦痛とは思わない。

 悠磨は効率を重視し、無駄なことはしない主義だ。人当たりの良さも柔らかい物腰も人間関係で面倒なトラブルに巻き込まれないための外装でしかなかった。

 しかし鈴菜には初めから素を出しているのは自分でも意外だった。

(まあ、いきなり結婚してくださいって言われて外面が吹きとばされたからな)

 悠磨は苦笑して、あのときのことを思い出す。

 月に数度あるかないかの完全オフの前日、ムーリット・アリーでひとり酒を軽く嗜むのが悠磨の唯一の息抜きだった。よく心得ているマスターの計らいで、柱に隠れるカウンターの端の席が定位置になっていた。

 たまにカウンターの逆側に同じ女性が座っているのをなんとなく意識していたが、はっきり認識したのは今から1年半位前だろうか。