合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 何食わぬ顔でやり過ごそうとしていたものの、静かな圧に観念するしかなかった。

「実は……子どものときから苦手で」

 鈴菜は肩をすくめた。

 今は健康そのもので風邪のひとつもひかない鈴菜だが、子どもの頃は喉が弱くよく熱を出していた。

「いつも通っていたのが実家の近くの小さな診療所だったんですけど、そこの先生が白衣を着た不愛想なおじいさんで、子ども心にものすごく怖かったんです。それがきっかけで病院独特の匂いとか雰囲気が苦手になりました」

 悠磨は黙って話を聞いている。

「さらに白状しちゃうと、血も苦手で健康診断の採血もすごく怖くて……心臓血管外科医の悠磨さんには言い出しずらくて」

 呆れられるに決まっているから言い出せなかった。両親は当然鈴菜の病院嫌いを知っているが、『恥ずかしいから悠磨さんに言わないで』と口止めをしていた。

(たしかに前回の健康診断のとき、璃子ちゃんに『病院なんて行きたくないけど、健康診断だけは避けられない』って嘆いちゃったな。まさかそこからバレるとは……)

 萎れていると、なんとも微妙な顔つきをした悠磨と目が合った。